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男の私、女のおれ2 

あゆみと直樹はその図書室でのやり取り以降、特に接点を持たなかった。
だが、父親の会社Honorが直樹の父が社長を務めるパンダイと業務提携を結んでおり、噂は父親を通じて耳に入っていたし、あゆみ自身、二人の動向をそれとなく観察していた。
それで分かったことは、恐らく入江直樹は相原琴子に心を許していると言うこと。
そもそも人に関心のない入江直樹という男が、わざわざF組の男女混合リレーの練習に口出しする筈もないし、体育祭でも家族が見ている前で彼女を背負ったりはしないだろう。つまり、その程度には関心がある。いつの間にか、呼び方も「琴子」になっているのがいい証拠だ。
加えて、父親経由で直樹がF組にテストの為の講習をしたとも聞いた。集団の恐ろしさに屈したのもあるだろうが、琴子がいなければ、直樹は屈しなかっただろう。あれは、そういう男だ。
「先輩は、入江先輩のことがよく分かってるよね。似てるからかな?」
中学にまで流れる入江直樹の噂を篤志にせがまれ、何となしに話した所、篤志は素直にそう言った。
ピシッという空気が割れる音を耳が捉えたような気がするが、それは自分自身の幻聴だろう。
はっきり言えば、あの男と似ていると言われるのはショックでしかないが、意外に共通点が多いことに気づき、何故気に食わなかったのか合点がいった。そう、同族嫌悪を彼に覚えていたようだ。
だが、それを篤志に対して認めるのは、かなり癪なことだったので不機嫌そうに目を細めると、篤志は慌てて謝り、その話はそれで無しになった。代わりに、篤志がしてきたのは別の話だ。
「先輩、フリーターって書いて怒られたって本当?」
「本当だけど。大学行く意味分からないし、就職は父さんの会社の一択。悪いけど、ごめんだね」
勉強したければ、自分の意思で勉強すればいい。教えられなくても分かる。
それは驕りではなく、事実だ。
大学に行く意味も分からず通うなど、金銭の無駄でしかない。
だが、就職となれば、父の会社以外許される訳もない。
下に弟妹がいるが、跡取りとして育てられているのは自分だ。
しかし、両親に悪いが、会社経営に興味を持っていない。
ならば、フリーターでも同じと思い、書いたが、やはりC組はそこそこいいクラスと位置づけられているらしく、教師にまず進路指導室に呼び出され、挙句両親にまで連絡がいき、昨日も激しい口論になったばかりだ。
「でも、先輩ならT大だって入れるでしょ。頭いいもの、先輩」
「C組がT大に行くと言う話は聞いたことがないな」
「先輩ならどこのクラスにいたって、T大に入れるよ」
篤志に根拠はないようだったが、中々核心を突いており、あゆみは内心ひやりとした。
確かに成績を操作して渡り歩いてきたが、それがお世辞にも褒められた行為ではないことは自覚している。先だって、足切りを恐れて集団で入江直樹に講義を受けていたF組の面々を見れば、明らかだ。自分には愚かしいと思えることだって、他人にはそうではない。彼らは、必死なのだ。必死が理解できない自分の方が欠落しているのだろう。
「進学するっていうのは、先輩がやりたいものを探す為の猶予の時間だと思うけど、俺」
あ、ちょっといいこと言った、などと小さく喜んでいる篤志にあゆみは目を細める。
こういう考えが出来る篤志を羨ましく思う。
存在を改めて認識し、意識を向けるようになってから、篤志には気づかされることが多い。
確かに篤志は何も出来ないが、だからこそ持ちえるものもあるのだろう。
そう、琴子のように。
(相原さんと篤志も共通点が多いな)
ああ、とそこであゆみは納得した。
自分の気持ちは、篤志に傾いているのかもしれない、と。
同時にそれは、入江直樹という男は、相原琴子に関心があるのではなく、自覚がなくとも好ましく思っているという推測を生んだ。
やがて、それは確信に変わる。
入江直樹は、盲腸で倒れてしまった琴子の為にT大受験をすっぽかしたのだ。
電話を入れ、家族に知らせたのなら受験出来ただろう。
だが、それをしなかった。
何故、受験しなかったか。
想像するのは難くない。
あゆみは、直感で結論を導き出した。
入江直樹は、T大ではなく、相原琴子が何とか進学した斗南大に進学することが、自分にとって有意義なことと思ったからだ。
それは、ただの同居人に対する感情を超えている。
つまり、そういうこと。
「もっとも、本人に自覚はないようだが」
あゆみは、噂を気にせず高校生活最後の登校をする直樹と琴子を見、一人笑っていた。



高校を卒業してからは、家が若干ばたばたした。
というのも、フリーターの生活が不安定であることから、せめて短大でもいいから自分を見つめ直してはどうかという祖母の説得に仕方なく応じ、祖母が理事長を務める祥鶴女子大の短大部にある日本文学科へ進学(両親は経営を学んでほしかったようだが、それは遠慮しておきたかった。乗せたがっているレールに自ら乗るような真似はしたくない。)し、その間の両親の干渉を考えると、やはり一人になる時間が欲しく思ったので、短大に通学している間だけを条件に一人暮らしすることにしたからだ。短大に近い、セキュリティの整った学生用のマンションに決め、引越しの準備を整え、その合間にバイトを決めるのに忙しかった。
しかも、自分とは入れ替わりに篤志が春から下宿することになっていた。
斗南高に進学できることになった篤志だったが、商社に勤める父親の海外赴任が決まり、家族揃って海外へという話になったのだが、篤志が日本がいいからと首を縦に振らず、一人暮らししてもいいから斗南高へ通いたいと譲らなかったのだ。
あゆみは、譲らない理由をすぐに理解した。
…自分だ。
もう会う度に「好き」と言う篤志が、自分と離れようとする訳がない。
一度もそんな素振りを見せてやったことはないが、篤志は一途に自分を想っている。
自分に出会ってからというもの、篤志は「好き」という気持ちを余すことなく自分にぶつけてきている。
自分の為に泣き、笑い、怒り、喜ぶ。
欠落している何かを埋めるように、篤志はそうしてあゆみの傍にいる。
そういう篤志が理解できなくもあり、理解できないからこそ羨ましく、また好ましく思っているのかもしれない。
その篤志に救いの手を差し伸べたのが、祖母だった。
祖母は、篤志のあゆみに対する感情が何であるのか、見抜いたのだろう。
「親友のお孫さんですから、高校卒業までの間、家でお預かりしますわ。
お部屋なら、幾つか空いてますもの。
あゆみちゃんが春から一人暮らしをしてしまうから、私も寂しいし、いいですわよね?」
微笑みながら、両親に頷く以外の選択をさせなかった祖母によって、篤志は日本に残り、下宿して斗南高へ通うことが許された。
その時の篤志の喜びようは、あゆみを呆れさせるしかなかったが…。
「でも、相原さんが篤志の立場でも日本に残っただろうな」
そうでなければ、あの男も動くまい。



あゆみが直樹と再会したのは、一人暮らしをするようになってからだいぶ経ってのことだ。
何かと理由をつけては会いに来る篤志を適当にあしらう日々で、その日も今日は借りていた本を返すとか何とかで遊びに来るというので、寒い中マンションの入り口で待たせていては風邪を引かれる。祖母に怒られるのは、避けたい所なので寄り道せず帰り道を急いでいた所、見覚えのある人物を見つけた。
「あれ、入江じゃないか」
そう声を掛けると、その人物、直樹は声を掛けた自分をすぐに認めた。
「…大城」
どうしてここに?と言いたげだったので、短大が近いので、入学時から一人暮らしをしていることを告げた。すると、最近になって、直樹も一人暮らしを始めたのだと言う。詳しいことは聞かなかったが、直樹なりに思うことがあったのだろう。T大を受験しなかったにしろ、折に触れ入ってくる話では、直樹の父は跡を継いでほしいようだから。だが、それを直樹が望んでいるようには、直樹の父には悪いが、見えなかった。
「相原さん、元気?」
そう尋ねると、直樹は凄まじく不本意そうな顔をした。
それがおかしくて仕方ないが、とりあえず笑わないでおく。
「何でおれに」
「お前が相原さんのこと、好きだからに決まってる」
直樹の問いにあゆみが即答すると、直樹はすっと目を細めた。迫力すら感じるそれにもあゆみは特に動揺を覚えない。逆に、見え透いたことだったのにと呆れたくらいだ。
「自覚なかったらしいな」
高校の頃から好きだったのに。
自分の一生を天秤に掛けて選んでいるのに。
この男は、本当に自分のようにそういう自分の内が解っていない。
もっとも、篤志の一言がなければ、自分が先に気づくこともなかっただろうが。
「泣かせたりしてないだろうな」
「…相変わらず琴子に肩入れしているんだな」
一人暮らしをするということは、琴子とも離れるということ。篤志を見ていれば分かるが、一途な人間には平静ではいられない状況だろう。距離を置かれたとも感じてしまうから。
あゆみの非難じみた言葉に、直樹は呆れ半分の皮肉を言い放ってきた。
せっかくのいい機会だ、同族に教えてやろうと思い、あゆみは素直に返した。
「ああ。相原さんは、明るくて頑張り屋で、可愛い。
他人の為に一生懸命になれるし、何よりパワフルだ。
私とは違うから、高校の頃から憧れているよ。
入江には勿体無い」
人は、自分にはないものを求めるものだ。
だからこそ、直樹は琴子を好きになったし、自分も然り。
だが、自分に似ているからこそ、勿体無いとも思う。
無償の愛を注ぐことが出来る琴子ならば、もっと誠実な相手も見つけられるだろうに。
…自分にも跳ね返ってくる言葉でもあるが。
無論、ここでは言わず、言葉を続けさせていただく。
「だから、入江の理性の限界が来て、相原さんがどうこうされたらと思うと、不憫でならない」
これは確信だが、欲しいものを欲しいと言っていいことを本人が許した瞬間、抑えていたものを解放し、凄まじいばかりの独占欲を見せるだろう。求めるまま、琴子を求める姿は想像に難くない。
あゆみの確信を察した直樹は、冷たい笑みを口元に刻んだ。
「お前をどうこうするって選択肢はないんだ」
大概の女なら落ちるであろう言葉にも心動かない。
理由は極めて簡単だ。
「思ってもないことを言うな、入江」
自分が同族嫌悪していることを気づかない男ではないし、また同族嫌悪(と呼んでいいだろう)を覚える女と認識しているだろう、話していて分かる。
吐き捨てて、その眼を真っ向から睨んだ。勿論、口元には冷笑を添えて。
「お前とどうこうなる訳がない。自分と似たような奴を好きになるなんてぞっとするね」
「それは奇遇だ。おれも同じだ」
相容れることのない二人は、そうして別れた。



次に再会したのは、大雪のバレンタインだった。
バイトからの帰り道、あゆみは直樹と琴子が道路の反対側でタクシーを止めようとしている姿を見かけ、大方近所のファミレスでバイトしているらしい直樹にチョコを渡しに来た琴子が帰れなくなり、タクシーを呼んでいるのだろうと推測したが、この時間、この天気、そして駅から離れているこの場所でタクシーなど捕まる訳がない。じきに直樹の部屋に身を寄せることになるだろうと結論づけて帰り道を急いだ。
そして、マンションの入り口で、あゆみは信じられないものを見る。
共同玄関で待っていたお陰で雪に濡れてはいないようだが、顔を真っ赤にした篤志が座り込んでいたのだ。
コートが学校指定のものではなく、篤志が持っているお出かけ用のダッフルコートであることから、一度家に帰ったものとは思うが、それでも今の時間を考えると、数時間はこの共同玄関に身を寄せていることになる。
「…あ、先輩、おかえりなさい…」
呆然と立ち尽くしたあゆみに気づいた篤志が、顔を上げ弱々しく笑った。どう見ても、熱があるとしか思えない姿だ。
「お前、何時間そこにいた?」
「えと、多分、3、4時間くらい…」
顔が引きつるのが分かる。
そんな長時間もの間こんな所にいたら、幾ら篤志が頑丈に出来ているとはいえ、具合を悪くするに決まっている。
何故、とは聞く気もなかった。
街が五月蝿いぐらいに騒いでいるバレンタインは、今日だ。
篤志は、義理でもいいから自分のチョコが欲しかったのだろう。
(馬鹿な奴だ)
チョコなどで人の気持ちが量れたら世の中苦労するものか。
理解できないが、重要なイベントなのだろう。多分。
「バーカ」
あゆみは吐き捨てると、篤志を引っ張りあげた。
よろよろと立ち上がった所を見ると、熱はかなり高いようだ。
共同玄関のドアを開けると、肩を貸し、部屋まで連れて行く。
部屋に連れて行くと、ひとまずコートなどをハンガーにかけ、熱を測るようにと体温計を手渡した。篤志が体温計を測っている間に女物で我慢してもらうしかないが、寝間着代わりに使っているシャツとズボンを出し、測り終えた所で浴室で着替えてくるように言い渡す。
(39℃…本当に馬鹿だな、お前)
たかがチョコの為によくもまぁそんな本気になれるものだ。
琴子と違う自分は、一大イベントに心躍ることもなく、チョコなど用意している訳もない。
寧ろ、バレンタインだからと言ってこんな馬鹿な真似をするのは勘弁してもらいたい。
しかし、された以上は仕方がないので、受話器を取り、家へ電話を入れる。
出てきたのは、祖母だった。
「ああ、お祖母ちゃん。私。篤志、いないだろ。
ご想像通り、今私の家にいる。
熱出してぶっ倒れてる。
熱は、かなり高いよ。
出来れば、迎えに…え、チェーンがない?
……分かった、一晩だけだから」
呆れたように受話器を置くと、着替え終わった篤志が出てきた。
高熱のせいか目がうつろで足元も覚束ない。
「とりあえず、ベッドは使っていいから」
「え?」
篤志がびっくりしたように目を瞬かせた。
「家に電話をしたけど、車にチェーンを巻いてないから、迎えに来られないらしい。
タクシー呼んでもいいけど、お前に熱もあるし、今晩は泊まっていいから。
分かったら、さっさと寝ろ」
「え、いや、あの、先輩、あの、俺…」
真っ赤な顔を更に真っ赤にさせた篤志は動揺しているようだった。
あゆみとて何も思わない訳ではないが、病人相手にどうこうしたいとは思わない。
シンプルなシングルサイズのベッドを指し示した。
「聞こえなかったか?病人は寝てろ。私はソファで寝るからいい」
「…ごめんなさい…」
篤志は泣きそうな声で謝り、素直に従った。
冷凍庫からアイスノンを出し、タオルを巻いたそれを篤志の頭の下に敷くと、あゆみは再びコートを羽織った。
「え、先輩?どこに行くの?」
「お前、何も食べてないだろう。薬が飲めない。近くのコンビニで何か買ってくる」
「え、でも…」
「大人しく寝てろ」
それだけ言い置いて、あゆみは再び外へ出た。
外は風の強さもあり、既に吹雪いているような状況だった。都内でこれだけの大雪は近年まれに見るのではないかと思いつつ、目的のコンビニまで足を急がせた。コンビニには店員以外誰もいないかと思いきや、あゆみは飲料をカゴに入れた直後に足を向かわせた目的のコーナーで、この状況で一番会いたくない人間に出会った。直樹だ。
「大城…」
そう声に出した直樹の顔は、自覚している自分の顔同様引きつっていた。ということは、向こうも今自分に一番会いたくなかったのだろう。
(ああ、相原さんね)
やはりタクシーは捕まらず、直樹の家へ身を寄せたらしい。直樹のことだ、家に連絡をして、琴子を迎えに来させようとしたのだろうが、卒業式に我を忘れて「立ち向かいなさい!!」などと叫ぶ直樹の母が動く訳がない。大方泊まらせていけと言われたに違いない。そして、自分と同じように買い出しに出ているわけだ。主に、宿泊者の為の食事を。
二人して面白くない顔をして、コンビニ弁当でもインスタントラーメンでもない、雑炊の素とレンジで炊けるパックの米(この時点で、あゆみは琴子が具合を悪くしたことを悟った)、朝食に必要なものを入れ、直樹はそのままレジへ向かったが、あゆみはふとレジ前のディスプレイに目を留めた。
(仕方がない、馬鹿の期待に応えよう)
一口サイズのハート型のナッツチョコを一つ、カゴに放り込んだ。あまり大仰なものは調子づかせるものだ。
それを見ていなかった直樹が気づくことはなく、会計も終わらせたらしく、さっさと立ち去ろうとしたのを呼び止めた。
「(具合が悪いんだし)相原さん相手に理性ぶっ飛ばすなよ」
直樹にしか聞こえない、低いつぶやきに直樹は、予想通りの反応をした。
「ご忠告どうも」
肯定も否定も癪だと思ったからこそそう返したのだろうが、残念、自分は道路の反対側で二人を見かけた。いることは想像がつく。
それに。
(お前一人だったら、我慢して寝るだろう?)
大雪の中、わざわざ外出しているのが何よりの証拠。
誰かの為に、直樹がしていることだということ。
そこまでする相手など、直樹には琴子くらいしかいないということ。
その琴子が同じ部屋で寝ていて、さて、理性は保たれるのかどうか。
もっとも、お膳立てされた状況に素直に乗る奴とは思えず、理性をフル活動させることは目に見えているので、何もないのだろうが、理性と戦う直樹を想像するとおかしくて笑うしかない。



あゆみが家に戻ると、篤志は熱で苦しかったのか、やはり寝ていた。
とりあえず、買ったもので雑炊を作り、冷えたスポーツドリンクをコップに注ぐと、篤志を起こした。篤志は辛そうだったが、身を起こし、少しずつ雑炊とスポーツドリンクを胃に収めていった。
申し訳なさそうな顔をしていたが、熱の辛さがそれを上回っているらしく、言葉数は少ない。
「食べたら、薬飲めよ。明日、熱下がらなかったら、病院連れて行くからな」
「…ごめんなさい…」
「無謀な真似をするからだ」
しょんぼりとした篤志にあゆみはわざと呆れた声で返した。
ますます落ち込むのは目に見えて分かっているが、もう二度とこんな真似をさせない為にはする必要がある。
「悪いと思うなら、ちゃんと寝ろ。早く治せ」
あゆみは厳しい声で言い放ったつもりだったが、篤志はあゆみの目を見て、こくりと頷いた。
どこか嬉しそうな笑みが篤志の顔全体に生まれる。
「うん…。先輩、ありがとう。やっぱ、俺、先輩が好き」
意識しての言葉ではないのだろうが、それだけに流石にあゆみもぐらっと来た。
(入江のこと、笑えない…)
まさか自分も理性と戦うかもしれないとは。
しかし、その後、あゆみは理性との本格的な戦いに突入することになる。
熱でうなされる篤志はうわ言でずっと「先輩、好き、大好き」を連呼したのである。
普段から告白され続けているが、夜中二人きりの部屋でしかも意識のない人間からそう何度も言われるのは、中々くるものがある。
しかも、アイスノンを替えてやったり、汗を拭いてやったりすると、熱で苦しくて意識がない筈なのに、一転して嬉しそうな笑いまで浮かべるのだ。タチが悪いことこの上ない。
それほどまでに一途に想うかと思うと、白旗を揚げるしかない。
「熱より私か。…馬鹿な奴」
あゆみは苦笑すると、コンビニで買ったチョコをそっと篤志のバッグに入れた。
気づいた時の反応が滑稽なものになるだろうが、恐らく自分は篤志を邪険に扱うだろう。篤志には悪いが、自分の一挙手一投足で一喜一憂する姿が可愛いのだ。普段、こちらを振り回しているのだから、これくらいの意地悪は許していただこう。
そして、それがどういう意味なのか、そのない頭で考えて、気づいてみればいい。
「バーカ」
あゆみは耳元で囁くと、気づかれないよう篤志にそっとキスを落とした。
とりあえず、もう夜もだいぶ更けているので、自分もソファで寝ることにした。「好き」のサウンドは、厄介ではあったが、心ときめくというよりは、穏やかなものに満たされ、寝れないということもなく、程なく眠気はやってきた。



寝る間際、頭の片隅で、果たして曲がりなりにも健康的な「男」であるあちらは寝れたかどうかと思ったが、多分、忠告は的確だっただろうと予想し、未だ眠れぬ同族を思い、頬を緩めた。
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