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女のおれ、男の私3 

沙穂子とのデート中に入ったレストランであゆみが品の良いスーツに身を包んだ男性と食事をしているのを見た瞬間、直樹は正確にその意味を理解した。
あゆみの父親の会社はパンダイと業務提携を結んでいただけあり、パンダイの不振の打撃を少なからず受けていた。
下手をすればパンダイと共倒れになる危険性もある。
だから、あゆみも見合いをしたのだろう。
短大卒業後、あゆみは会社社長である父親の手伝いをしており、直樹も仕事上の席で父の名代としてやってくるあゆみに何度か会った。
(相手は、随分年上だな)
遠目だが、何度も仕事で会ったことがあるから見間違えはない。彼は大手企業グループの会長の孫で、名は西秀臣だ。彼自身も傘下の百貨店で重役に名を連ねている人物で、確か今年33になる。一回りの年の差があるが、結婚に差し障りのある範囲ではないだろう。
目的は、言わずもがなである。
結婚は思った以上の結びつきを促がすから。
(考えることは、同じか)
自分も正しいと思って決断したことなのに、いざ他人、それも同族嫌悪している人物がやっているのを見るのと複雑な心境になる。
それは本当に正しいことなのか、と。
あゆみは女性らしい装いをしており、慎ましやかな表情で相手と話している。時折見せる笑みは、控えめなものだ。席が近かったので多少会話は耳に入ってきたが、当たり障りのないクラシック音楽に関するもので、言葉遣いは令嬢のそれだった。
仮面をつけているとすぐに分かった。
何故なら、仮面は今自分もつけている。
相手を自分を誤魔化す為に。
だが、彼があゆみから視線を外した、ほんの一瞬。
彼女は、笑みのない表情で遠くを見つめた。


それは、本当に正しいことなのか?


口では表現できない苦々しさが直樹の胸に広がった。



「直樹さん?」
手を止めた直樹が気になったのか、沙穂子が声をかけてきた。
非の打ち所のない女性、完璧な婚約者。
政略結婚の筈なのに、自分を好いてくれる。
億尾にも出さないが、琴子のことは不安に思っているだろう。
そう知りながら、必死にならなければ自分の気持ちを押さえ込めない自分がいて、それを申し訳なく思う。
「失礼しました。高校の頃の同級生を見かけたものですから」
「まぁ。どなた?」
繕って答えると、沙穂子は口に手を当てて驚いた。
直樹が斜め後ろのテーブルにいる女性がそうだと教えると、育ちの良い沙穂子は不躾にならない程度にそのテーブルを見やった。
見覚えがあるのか、沙穂子は小さく声を上げた。
「ご存知でしたか?」
「ええ、あゆみさんのお母様は私のお母様のお友達で、いつもよくしていただいているんです」
「そうでしたか」
「ご挨拶に行きませんか?」
沙穂子は無邪気に誘ったが、今自分があゆみに話しかけられたいと思わないので、恐らく相手も同じだろうと思い、デートの邪魔になってしまうだろうからと巧くかわした。沙穂子も仲睦まじい雰囲気を察し、それもそうだと納得してくれた。
やがてエスコートされ、あゆみは席を立つ。
既に直樹を認識していたのだろう、あゆみは一度直樹を見た。
唇だけ彼女は動かした。

─お互い様─

直樹がそうであるように、あゆみも琴子以外の存在とデートしているのを見て、直樹の思惑の全てを理解したのだ。
自分達は、余りにも似過ぎているから。
お互い様、とは、つまりはそういう意味である。


それは、本当に正しいことなのか?


答えは知っているが、解りたくなかった。
琴子を泣かせてまで進んでいる道が何なのか。
本当は誰よりもその意味を知っているから。




沙穂子を家まで送り届けた直樹は頭を冷やしたくなり、家のかなり前でタクシーを降りた。
秋も深まる空気がひんやりとしていて、逆にそれが思考を迷路に導く。
自分も、ああなのだろうか。
完璧な婚約者に対し完璧に振る舞い、結婚へ進む。
結婚すれば、当面会社は安泰、社員を路頭に迷わせることはなくなる。
自分ひとりの気持ちを犠牲にして。
分かっていることだけど、まだ解っていない部分があるかもしれない。
(大城は、やはりおれと「同じ」なのだろうか)
高校の頃、聞いてなかった可能性もあるが恋愛の噂もなかったし、当然だがビジネスの場でそんな話も出なかった。ならば、見合い結婚でも恋愛感情さえついてくれば幸せになれるかもしれないが、仮面をつけて接しているのならば、それは望み薄に思えた。随分肩入れしている琴子のように一途な恋に憧れているのかもしれないし、自分と同じように口に出すことが許されない、封印すべき感情を既に持っているのかもしれない。
そこまで考えた時、通りがかった公園に誰かいるのが見えた。
暗くてよく分からないが、制服からして斗南高の男子生徒のようだ。
特に興味を引くものではない。声も掛けずに立ち去ろうとしたが、背後からその男子生徒がギャーギャー泣き始めるのが聞こえ、思わず足を止めた。
こんな時間にいるのだし、家を出て自棄を起こして未成年飲酒でもしたのかと思ったが、どの道関わり合いにならない方がいいと思い、止めた足を動かそうとした瞬間、男子生徒は泣き叫んだ。

「あゆみ先輩の馬鹿ー!!!」

あゆみ先輩。

まさかなと頬が引きつるのが分かった。
この周辺にあゆみの家(短大卒業後実家に戻ったと聞いている)があるというのは知っているから、ありえなくはないが、偶然にしては出来すぎている。

だが、その一瞬が直樹にとって命取りだった。



つまり、男子生徒に発見、捕獲されたのである。
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