FC2ブログ

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

女のおれ、男の私4 

(何故、おれはこの状態になっているのだろう)
直樹は、眉間の皺を深く刻み込みそう考えた。
現在、時計は12時。
早く帰りたいが、この状況では帰れない。

あの頬をひくつかせた一瞬、この斗南高の男子生徒が自分を視界に入れた。
「通りすがりの人、話を聞いてください」と彼は泣きついてきたのだ。
何でおれがと思ったが、大粒の涙がぽろぽろ落ちており、それがあゆみに起因するものであることは容易に想像がついた。先刻、自分と同じ立場になっているあゆみを見たばかりだったし、男子生徒の泣き顔が何故か琴子を思い出させ、動けなくなった。それを了承と取った男子生徒は、直樹の腕を取り、強引にベンチまで引っ張っていった。

泣きながら話す男子生徒の話は、まとまりが悪かったが、要約するとこうだ。
中学1年の時にあまりにも勉強が出来ない自分に見かねた両親が、祖母の友人の孫だというとある先輩(あゆみのことだろう)を家庭教師役として紹介した。スラリとした長身に整った顔立ち、頭の回転の速さ、飾らない言動とクールな性格全てに虜となった。思い切って告白したが、「断る」の一言ですげなく蹴散らされた。
だが、諦めきれず、会う度に好きだと言い続けた。やがて中学3年になり、高校も何とか足切りの対象にならずエスカレーターで付属の高校へ行けることになった。
しかし、父が海外赴任となり、まだ親の庇護が必要な年齢だったのでついてくるよう言われた。
自分は先輩と離れるのが嫌で、日本に残り一人暮らしすると言い張り、両親が猛反対する中、その先輩の祖母が親友の孫だからと高校卒業まで下宿を申し出てくれ、高校1年から彼女の家の居候になっている。
逆に高校卒業後、短大の間だけという条件付で家を出た彼女とは同居していなかったが、彼女が家に戻るまで自分の方から理由をつけて会いにいった。
相変わらず邪険にされたが、馬鹿を連呼しながらも結局最後は面倒を見てくれたり、バレンタインデーの晩に彼女のチョコが欲しくて大雪の中数時間待っていたら、高熱で倒れてしまい帰れなくなった自分を部屋に泊めてくれた上、手ずから看病してくれたり(直樹はあの晩、あゆみが顔を引きつらせた理由を理解した)、ぽろっと本音を出してくれたりして、諦めるどころかますます好きになってしまっているのだとか。

(……大城、お前、どこまでもおれと「同じ」なんだな……)
まさかその先輩本人と知り合い(友達ではないだろう)だとは言えず、だんまりを決め込む直樹だった。

自分より頭一つ小さい男子生徒は、くりくりとした大きな目が印象的な、童顔の少年だ。表情も泣いてばっかりだが、豊かな方だろう。何となく琴子を思い出し、まだ完全に燻る感情を押さえ込めない自分に嫌悪する。
事情を語るのみなので、この男子生徒の詳細はわからないが、あゆみ以上に秀でている何かを持っているようには見えない。
高校時代の成績と卒業した短大の名前だけ見れば、あゆみも(こういった世界の中では)大したことないのだが、臨時役員という立場であるあゆみの頭の回転の速さを見るにつけ、それらの方がおかしかったと結論付ける他ない。…もっとも、出会った時からして、アメリカの判例集を何の苦もなく読んでいたから、推して知るべしだが。
「けど、先輩のお父さんの会社が今、芳しくなくて。その余波が先輩にも来て、お見合いって話になったんです。
先輩は、断ってました。先輩には、夢があったから。暇を見つけてその為の勉強をしてたの、俺は知ってました。けど、結婚したら、もうその夢は叶わないだろうし、気が進んでいない会社のお手伝いも本格的になってしまうだろうから。
でも、どうしてもと先輩のご両親が強く勧められて……。
それで、先輩は、業務提携を結んでいる会社は不振で共倒れの可能性があるから、その会社の関係者ではない、まったく別の会社の関係者ならしてもいいって…そう言ったんです」
直樹は、今までその可能性を失念していた自分に内心舌を打った。
その可能性は十分にあった。
沙穂子よりも寧ろあゆみとお見合いをする可能性の方が高かった。
自分はあゆみの父親の会社と業務提携を結んでいる会社の社長代理、しかもあゆみとは高校時代の同級生。
確かに今パンダイは不振に喘いでいるが、自分が社長代理として建て直しているのだし、彼女も臨時役員として十分に手腕を発揮している人物だ。結婚してより関係を強固にすれば、恐らく巻き返せるだろう。パンダイも彼女の父親の会社も。
考えられない方がおかしい。
直樹に話すら来なかったのは、あゆみが応じなかったからだろう。
共倒れになる可能性、それをあゆみは指摘し断ったが、本当の理由はそこにない。


琴子だ。


自分の琴子に対する感情を彼女は知っていた。
勿論、琴子の自分に対する感情も十分に。


だから、彼女は断った。
どうしても政略結婚をしなければならないのなら、琴子というビジネスとは無関係の犠牲者を出したくなかったから。
沙穂子とお見合いをし、結婚の話を進めている今、無駄になってしまったが、それがあゆみに出来る唯一のことだったのだろう。
あゆみにはお見合いを反対してくれる「味方」が彼女を好きだというこの男子生徒以外いなかったし、「現実」が甘くなかった。
「相手の人は年上の人なんですが、男の俺が見ても憧れてしまうような人です。
一度だけ話したことがあるんですが、とても先輩を大切にされていて。
先輩もとてもいい方だと言っていて。
俺の入る隙間なんかもうなくて。
諦めなければって思ってるのに、好きで好きでしょうがなくて。
なのに、先輩は彼女見つければって言うし。
俺、この状態では絶対無理なのに。
だから、今は家にいるのが辛くて帰りたくなくて……」
そう言って男子生徒はまた泣いた。
直樹は、言葉も出なかった。


これは、琴子だ。
沙穂子を気に入ったという自分の言葉を信じている琴子がもう自分には見せない姿だ。


目を背けていたものを眼前に突きつけられた気がして、愕然とした思いがする。
琴子は自分を想うからこそ、自分の前で自分を想って泣くことは最早ないだろう。
そして、この男子生徒もあゆみを想うからこそ、あゆみの前であゆみを想って泣くことはしていないだろう。


「あ、すみません。泣いてしまって。
男なのに、恥ずかしいですよね……」


直樹の沈黙を呆れと取ったのか、男子生徒は制服の袖で乱暴に目元を擦った。
「いや…」と首を緩く振った、その時だ。


「篤志!!どこだ、篤志!!」


夜の静寂に何度も名前がこだまする。
男子生徒がびくりと身体を震わせる所を見ると、この男子生徒の名なのだろう。
そして、この声の主は。


「篤志、こんな所にいたのか」


先刻見かけた格好と同じであることから、デートから帰ってきて、この男子生徒がまだ家に帰っていないことを知り、着替えもせず捜していたのだろう。また、息を乱していることから、この周辺をずっと走り回っていたことが伺える。
それだけで分かった。


あゆみの本心を。
あゆみがついた嘘の残酷さを。


そして、同じ嘘をついた自分の残酷さを。
| HOME |

Calendar

S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
07« 2018/08 »09

プロフィール

  • まりか

    Author:まりか
    ご来訪ありがとうございます。
    初めていらっしゃった方は、お手数ですが、「はじめに」をご覧くださいませ。
    Linkはフリーとなっております。
    ご連絡いただければ、遊びに行かせていただきます。

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

カテゴリ

FC2カウンター

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード

  • QRコード
PageTop▲
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。