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女のおれ、男の私5 

外灯に照らされたあゆみの顔は、明らかに怒っていた。
乱れている息を整えながら、靴音高く歩み寄ってくると、篤志と呼ばれた男子生徒は身体を硬直させ、直樹の背後に逃げるように隠れた。
しかし、あゆみは歩調を速めると、彼の腕を掴んで直樹の背後から引きずり出し、あゆみはその頬を叩いた。彼、篤志が尻餅をついたのだから、相当な力で叩いたのだろう。それ位、彼女は怒っているようだ。
「今、何時だと思っている」
だが、篤志は何も答えない。
大粒の涙がじわりと浮かんだだけだ。
「こんな夜遅くまで家に帰らないで…。
お前、どれだけ私に心配をかければ気が済むんだ」
それは、篤志にとっては辛い言葉だったのだろう。
次の瞬間、豊かな感情を爆発させた。
「何で……俺の心配なんかするんだよ」
立ち上がった篤志の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「どうして俺に期待を持たせようとするんだよ。
心配するなよ、捜すなよ!!
俺のことなんて、放っておけばいいだろ?!
家に帰ってほしいなら、ちゃんと帰るよ。
もうこんなことしない。
だから、これ以上優しくするな。
先輩を好きのままにさせるなっ!!」
篤志はそう言うと、走り去っていた。
恐らく、彼はあゆみを見なかっただろう。
そのやるせない表情と喉までせり上がった言葉を必死に殺そうとしていた姿を見なかっただろう。
篤志が走り去った数秒の沈黙の後、あゆみが直樹に振り返る。
そこには、先程の激情はなかった。
「入江、篤志…うちの居候が迷惑をかけたようだな。すまない」
そう言い、あゆみが苦々しい笑みを口の端に乗せた。
心情を察し、肯定も否定も憚られた直樹は、それには答えず、篤志が話したことを簡潔に言った。
「家にいるのが辛くて帰りたくなかったらしいな」
「そうだろうな」
あゆみは直樹の言葉をあっさりと認めた。
「あいつは、呼吸をするみたいに私のことが好きだから。
あいつは勉強は出来ないし、不器用だし、単細胞で失敗ばかりするどうしようもない奴だが、馬鹿みたいに一途なんだ。
一途に私を想い、私に感情の全てを向けてきた。
恐らく、ずっと私のことが好きだろう。
私以外の女に目を向けるなんて、今更出来はしないこと位解っている。
そのあいつにとってこの状況がどれだけ辛いか……解っているつもりだ。
私が一番あいつを追い詰めていることも……解っているつもりだ」
あゆみの言葉の一つ一つが苦々しい。
そして、それは直樹にも突き刺さる言葉だった。
琴子を想いながら、それを閉じ込めている自分が一番琴子を追い詰めているのは明白だ。
「……入江、お互い辛いな」
そう言い、あゆみは立ち去っていった。
その背を見送った直樹は、深く溜息をついた。
誰に聞かせるともなく、苦々しくつぶやく。
「ああ、本当にそうだな……」


琴子、お前は知らないだろう。
おれがどんな想いを抱いているか。


諦めろ。
口では簡単に言える。
お前に出来ないと知っているのに。


……本当は、おれのことを好きなままでいてほしいと思っているのに。


おれが好きになったのは、お前だけ。
世界に色を与えてくれたのは、お前だけ。


おれ以外の男を好きになるな。
お前以外の女を愛することはないのだから。


けれど、伝えることは許されず、永遠に封じ込めなければならない。
偽りの感情を上書きして、自分を死ぬまで騙さなければならない。


……大丈夫。きっと出来る。


これは自分自身の意思で選んだこと、それに間違えなどない。
だが…心の奥底で同じ問いが繰り返されている。


それは、本当に正しいことなのか?


(考えても仕方ないことだ)
直樹は、頭を冷やすようにゆっくりと歩き始める。
篤志の激情は琴子の心のようで、あゆみの本音は自分が封じているものと同じで、心に重いものが落ちている。
今、自分が考えることは会社のことと沙穂子との結婚のことだけでいいのに。
けれど、どんなに理性を働かせても、先程の出来事が自分と琴子にすりかわる。


琴子が、泣いている。
ずっとずっと泣いている。
自分を想って、泣いている。


─……入江、お互い辛いな。


「ああ、本当にそうだな……」


直樹は、もう一度その言葉をつぶやいた。
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