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女のおれ、男の私6 

大丈夫。決めたことだ。間違えはない。
自分を騙し続けていける。
それなのに、思う通りにならない。
頭の中でずっと琴子を再生し続けている。



「入江社長代理」
声をかけられ、直樹は我に返った。
「武西百貨店本店営業部本部長の西様がお見えです」
「通して」
秘書の言葉に簡潔に返すと、秘書が一旦直樹の前を辞する。
これから会う武西百貨店の西は、営業本部長であり、あゆみの婚約者だ。
また、重要な取引先の一つで、武西百貨店へはクリスマスに向け、パンダイ商品を多く卸してもらわなければならない。
会う必要がある相手だ。が、気が重いのは確かだ。
どうしても思い出してしまうからだ。


あの夜、出会った篤志。
彼はあゆみ以外が選べない位好きなようだった。
家にいるのが辛いと涙を流していた。
捜しにきたあゆみに優しくするなと血を吐くように叫んだ。
どれだけの想いがあるのか、自分には解らない。
だが、篤志の言葉の一つ一つが琴子を思い出させる。
二人のやり取りが、自分と琴子に摩り替わるような錯覚さえ覚えた。
彼は、あゆみのいない場所で今もあゆみを想って泣いているのだろうか。


そして、昨日の琴子。
沙穂子とのデート中に見かけた琴子の傍には金之助がおり、琴子は楽しそうに笑っていた。
無視しようと思ったのに沙穂子が声をかけてしまったのだ。
沙穂子に悪気はないのだろう、偶然を素直に喜んでいたから。
金之助は前から琴子を好いていたのだし、デートを繰り返しているとなれば、その相手は自ずと想像が出来た。
琴子とっては金之助はいい友達であり、恋愛感情なんて少しもないことは知っている。
だが、仲良さそうにしている二人を見ると、凶暴なまでの苛立ちが黒く心を覆った。
自分でも驚くぐらい滑らかに冷酷な言葉が出た。
1秒でもその光景を見たくなかった。
視界から消えて欲しかった。
だが、琴子が雑踏に消えると、言いようのない激痛が心の中に走った。
心の奥底で問いが繰り返される。


それは、本当に正しいことなのか?


同じ立場のあゆみは、この問いに答えることが出来るだろうか。
もし、自分と同じように西とのデート中に自分以外の存在とデートをしている篤志を見かけたら、平静でいられるだろうか。


否、いられない。


あの夜、あんなに感情的な彼女を見たのは、初めてだった。
恐らく自分と同じことをするだろう。
同族嫌悪するくらい、自分達は似ているから。



そこまで思考が至った時、秘書が西を伴ってやってきた。
西とは何度か会っているが、明晰な頭脳を持っていると思う。だが、冷たい印象はなく、穏やかな笑顔が印象的な好青年と言っていい人物だろう。
仕事の話はいつも通り滞りなく済んだが、西は帰り際、後に直樹はその瞬間を彼は狙っていたのだろうと思うが、こう切り出した。
「彼女とは、同級生だそうですね」
「ええ、まぁ」
「けれど、僕が彼女とお見合いをし、入江社長代理は北英社の大泉会長の孫娘さんとお見合いをなさっている。結婚間近だとか」
こういう仕事をしていると情報が早いのだと西は言った。
どうやら武西百貨店の大口顧客の中に大泉会長も名を連ねているらしい。無論、入江家も武西百貨店の大口顧客リストに名を連ねているが。
だが、何故いきなりそんな話をするのか直樹には分からなかった。
「…それが、何か?」
「業務提携もされている筈なのに、お二人が違う相手と縁談をしているのが、不思議だと思っただけですよ」
穏やかだが読めない、それでいて見透かされてしまいそうな笑みを西は浮かべた。
「僕は彼女のことを気に入っていますよ。
仕事も出来るし、聡明な美人。婚約者としては、完璧な女性です。
僕も社運を一人で背負わされる彼女が不憫でならないと思い、誠意を尽くしてきましたが……最近、彼女への誠意のあり方は別にあると思うようになりました。
彼女は既に選んでいる。
それを知っているのなら、その誠意のあり方も自ずと見えましょう。
……あなたにも示してほしい誠意のあり方でもあります。
これだけ申し上げれば、聡いあなたにはお分かりでしょう」
「いえ。何の話をされているか分かりかねます」
だが、直樹の冷ややかな言葉にも西は笑みを崩さなかった。
「僕は、僕に出来る最大の誠意を彼女に示そうと思います。
入江社長代理、二度と取り戻せなくなってからでは遅いんですよ」
西は笑みを深めると、会釈して帰っていった。


二度と取り戻せなくなってからでは遅い。
そんなこと、分かっている。
分かっているが、戻れない。


沙穂子と結婚するしか道がない。
けれど、少しでも近くに琴子を置いていたい。


だが、別離は確実に近づいているだろう。


沙穂子との結婚が更に進めば、琴子は父親と共に家を出るに違いない。
もうその算段をつけているかもしれない。
琴子が家を出て、自分が大学を退学して会社を継いだら、もう接点はない。
会うこともない。
自分を見て、馬鹿みたいに嬉しそうな琴子の笑顔を見ることもない。
いや、沙穂子との見合いを進めている今、琴子が自分に向けて笑顔を向けることはない。
それどころか最近は、琴子が避けているのか、家でも見かけることもない……。


「明日は会社、休みか……」


大学に荷物を取りに行けば、琴子を見ることが出来るかもしれない。
遠目でもいい、元気な姿を見たい。
そして、確信したい。
琴子の中に、消えない自分がいるということを。
それだけで十分だ。


「おれはつくづく誠意のない男だな」


直樹は自嘲の笑みを浮かべた。
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