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女のおれ、男の私6.5 

「懐かしいな。変わってない」
琴子は呟き、校舎に背を預けた。
何となく一人で考えたくて、高校まで来てしまった。
本来、関係者以外立ち入り禁止なのだが、開いていた裏門からこっそり入ってしまった。
人気が全くないこの場所は、直樹に初めて逆襲した場所。
誰にも知られたくない過去を目の当たりにした直樹は、面白いぐらい動揺した。
顔を真っ赤にした直樹を、ちょっと可愛いと思ったのは昔の話だ。
卒業してからもう3年も経つ。
あの頃から、ただ、ただ、直樹が好きだった。直樹だけが好きだった。
あの頃と違うのは、直樹にはもう他の女性が傍にいるということだけ。
もう諦めなければならないということだけ。


金之助は、自分のことが好きだと言う。
結婚してほしい、ずっと決めていたと。


けれど、心が追いついていない。
ずっといい友達だと思っていた。
そんな目で見たことがなかったし、金之助との未来を想像したことがなかった。
直樹のことは、もう諦めなければならないことは分かっているが、金之助を受け入れろというのはまた話が違う。
どうすればいいのか分からない。
戻れるものなら、あの頃に戻りたい。
そうすれば、ただ、ただ、好きなままでいられるから。
好きなままでいられたら、それはどんなに幸せなことだったろう。
もう、それすらも許されない。


その時だ。


足音が近づいてきたので、琴子は慌てて茂みの中に隠れた。
警備員に見つかったら、ことだ。
だが…足音は、琴子が想像したよりも随分前で止まった。


「やはりここだったか、篤志」


聞き覚えがある、低い声。
茂みからそっと顔を出すと、夏に公園で出会った、同級生だという女性が見えた。
(あの人、高校に勤めてるのかな)
琴子は状況が分からず、茂みから様子をそっと見る。
彼女の足元に男子生徒が校舎を背にして座っていた。
俯いてて、彼の顔はよく見えないが、女性に会いたくない様子だというのは何となく分かった。
「何でここに。部外者は立ち入り禁止だよ」
「お前に会いに来たんだよ」
女性は腕を取り、男子生徒に立つよう促がす。
「話がある」
その言葉に、男子生徒は明らかに怯えた様子を見せた。
腕を振り解くと、琴子の耳にやっと届く声で彼はつぶやいた。
「俺は話すことなんかないよ」
「私には、ある」
女性はもう一度男子生徒の腕を掴んで無理やり立たせた。そして、空いている片方の手が強引に男子生徒の顔を上(彼女の方が背が高いのだ)へ向かせる。
間近で見ていない琴子の目から見ても男子生徒は動揺していた。
「何で放っておいてくれないの?
優しくするなって言ったのに……何で構うの?
先輩は、西さんとの結婚のことを考えてれば…」
「破談になった」
泣きそうな声を、女性は強く遮った。
「秀臣さんからの申し出で、さっき破談になった」
「そんな……どうして……」
かなり動揺しているのが、空気を伝って分かる。
琴子も自分のことではないのに、ひどく動揺していた。
諦められるかもしれない、と彼女が言った意中の人物がこの男子生徒であることに流石に気づいたのだ。
似た状況の二人の展開を、つい、自分と直樹に当てはめる自分がいる。
この二人と違って、そんなことありはしないのに。
「理由は、お前」
「え、お…っ?!」
驚く男子生徒の言葉を封じるように女性がキスをしているのが見える。
数秒の後、顔を離した女性が男子生徒を抱きしめた。
「私の気持ちが、お前にあること。それが破談の理由。
……もっとも、この結婚に乗り気だった両親には秀臣さんが上手く理由を作ってくれるだろうが」
琴子にはよく事情が飲み込めないが、とにかく彼女は心のない結婚をしなくて済むようだ。
だが、男子生徒の方が当事者の分、事態についていっていないらしく、混乱しているのが分かる。
「そんな……先輩は、西さんのこと、いい人だって……、それに、俺なんか、俺なんか……」
女性が男子生徒に顔を寄せ、微笑む。離れた場所から見ても、それは優しいものだった。
「秀臣さんは確かにいい人だが、私が選んだのはお前だよ。
お前にまいった、という方が正しいかもしれないが。
だから、もう泣くな。ちゃんとお前のこと、大好きだから」
その言葉を聞き、腕の中で嬉し泣きした男子生徒をあやすように女性がキスの雨を降らせているのを見て、琴子はそっとその場を離れた。
この場にいられない、いたくなかった。
このままいたら、自分が壊れてしまいそうな気がしたから。
祝福する気持ちは勿論ある。
諦められるかもしれないと、諦める振りをすると言っていた彼女が好きな人を諦めず、幸せそうにしているのは、良かったと心の底から思う。
だが、手に入らない幸せを見せつけられたような気がした。
心に痛みと苦しみが波となって押し寄せる。


あたしも、夢でもいいから入江くんとああなりたかった。
そうしたら、あたしはずっと夢の中にいるのに。
ずっとずっと幸せなままでいられるのに。
でも、入江くんにはもう沙穂子さんがいる。
だから、もう夢なんか見られない。


あたし、忘れなきゃ駄目だって分かってる。
金ちゃんに応えないと駄目ってことも分かってる。
金ちゃんは優しいし、一緒にいて楽しい。
でも、あたしは……。
あたしの心は、まだ……。


どうすれば、入江くんを忘れられるんだろう。
どうしたら、この「好き」を捨てられるんだろう。


あたしの「好き」は、どこに行けばいいんだろう。


知らない、気にしない、そう決めたのに、頭にどんどん浮かんでくる。
辛いよ、苦しいよ……。


琴子は顔を覆って泣いた。
枯れることなどないかのように、涙は出た。
離れたくないのに、今はいるのが辛い家まで泣いて帰った。
家に帰ると、まっすぐ洗面所に行って顔を洗った。
泣きはらした顔なんか誰にも見せてはいけない
顔を拭いて洗面所を出ると、リビングにある電話が鳴っていた。


「はい、入江です。……あっ、金ちゃん、どーしたの?」


琴子はこの時、何も知らなかった。
行き先がないと思っていた「好き」が、既に相手へ着いていることに。
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