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男の私、女のおれ6.5 

注意:この回はほぼオリキャラで進行しており、イタキスキャラ出演はほとんどありません。
   苦手な方は、閲覧には十分お気をつけ下さい。
斗南高へ着くと、校門で来校手続きを行い、まずは職員室へ足を運んだ。
来校の理由は、恩師の訪問だ。名義は立てなければなるまい。
既に授業は終わっており、職員室には多くの教師がいた。その中で篤志の担任教師(あゆみの恩師は残念ながら離席中でいなかったのだ)を見つけると、他愛ない世間話をし、何気なく斗南大の受験のことを尋ねる。
篤志とは最近、顔も合わせていない状況だったから、篤志の進路が気になったというのが主な理由だ。
「沢森は、足切りにはならなかったな。沢森の成績では文学部なんだが、本人がやけに医療系の進路を希望している。
すぐに医師は無理だろうが、看護師になり、それを足がかりに医師になりたいと言ってきてな。
俺はえらく驚いたもんだよ。
まさか沢森が医者になりたいと真面目に言うとはな。
皆笑ってたんだが、あいつは怒りもせず、無謀は百も承知だけど、なりたいって言い張って譲らないんだ。
最短で看護師になるのだったら、大学蹴って、看護専門学校の方がいいのかと真剣に聞いてくる。
まぁ、なれるなれないは別としてだ、俺は、斗南大には付属病院もあるから、斗南大の方がいい。ひとまず文学部に入って、後で転科試験を受けてはどうかと言ったんだが、それから熱心に勉強しているみたいだな。F組でもあいつは下の方だったから、だいぶ遅れているんだが、最近よく職員室に質問に来る姿を見かけるな。
大城は、何か知ってるか?」
「いえ…」
あゆみは緩く首を振ったが、理由はすぐに分かった。
自分だ。
医者になりたいという夢を諦めた自分の代わりに、篤志は看護師を経由(恐らく篤志なりに考えて最短で医者という夢にしなかったのだろう)し、医者になろうとしている。
自分の夢を、篤志が叶えたいと願っている。
自分のことは諦めようとしているのに、自分の心にまだ燻っている夢を救い上げようとしている。
それが、何よりもの告白だった。
(秀臣さん、だからあなたは篤志を泣かせては駄目だと言ったんですね)
伝えたいことを伝える為にここに来たのに、それ以上に篤志の想いの深さを思い知らされた。
重い純粋だ。
西は、篤志の視線に含まれた想いもまた、気づいたのだろう。
デートの話を彼は一切しなかった。
たった一言でも篤志は打ちのめされる。
その位好いている。
(…気遣ったのではなく、認めていたということか)
まだまだ西を見くびっていた部分があったということか。
だが、婚約者が西であって良かったと思う。
西でなければ、このチャンスは来なかった。
そして、こんなに篤志を必要としているとは思わなかった。



職員室で一通りの挨拶を済ませると、あゆみは3-Fを訪れた。
教室にはまばらにしか生徒がいなかったが、篤志の所在を尋ねると、図書室に最近通っているという。
彼らは驚いていたが、職員室での話を聞けば、そう驚くほどのことではない。
礼を言い、図書室に足を運んだが、篤志はいなかった。
「そういえば、入江と初めて会話した時も誰もいない図書室だったな。こんな陽射しが差し込んでて」
あの時は、校舎裏の一件を引き合いに出して入江の反応を面白がったものだ。
そう、校舎裏は自分のお気に入りだった。
あゆみは、そこまで考え、思案する。
「校舎裏だな」
隠れ家にちょうどいいと教えた場所がある。
篤志はそこにいると確信し、あゆみは身を翻した。
帰宅したという発想はない。
自分との帰宅時間をずらす為、篤志なりに考えて登下校しているというのはここ最近の行動で分かっている。
今の時間はまだ、下校していないはずだ。



校舎裏に足を進めると、やはりその場所に篤志はいた。
生物の参考書を読んでいたが、わざと靴音高く歩き、存在を知らしめる。
何気ない様子でこちらを見た篤志の顔が硬直するのが分かる。
それはそうだ、今この時間にこの場所に自分がいる訳はない。
「やはりここだったか、篤志」
すっと目を細めると、篤志は顔を俯かせた。
会いたくない、会うのが怖い。
そう思っているのが、手に取るように分かる。
先程の話のお陰で、自分勝手な苛立ちは最早ない。
一呼吸入れて正解だった。
「何でここに。部外者は立ち入り禁止だよ」
「お前に会いに来たんだよ」
篤志の問いにあゆみは間髪入れず答えた。
そう、ここにいる一番の目的は、篤志。
篤志に伝える為に、ここにいる。
立てと促がしたが、「話がある」という言葉に篤志は明らかに怯えた様子を見せた。
(私がそこまで追い詰めたということだな)
あゆみは、心の中で苦く笑った。
だが、篤志の心は少しも動いていないのだ、こちらも伝えなければならない。
「俺は話すことなんかないよ」
「私には、ある」
あゆみは強く遮り、篤志を無理やり立たせた。囁くように「こちらを見ろ」と言い、空いた片手で篤志の顎を捉え、上へ向かせる。初めて目が合った。豊かな感情を映す大きな目は、すっかり動揺しきっていた。堪えているようだが、涙も少し滲んでいる。
「何で放っておいてくれないの?
優しくするなって言ったのに……何で構うの?
先輩は、西さんとの結婚のことを考えてれば…」
「破談になった」
あゆみは、再度強く遮った。
その言葉に、篤志の時間が停止する。
すぐに意味を理解することが出来なかったのだろう。
無理もない、そうなるように仕向けたのだから。

けれど、もう、嘘はいいのだ。

安心させるように、あゆみは優しく言い聞かせる。
「秀臣さんからの申し出で、さっき破談になった」
「そんな……どうして……」
「理由は、お前」
「え、お…っ?!」
悪戯っぽく笑うと、そのまま顔を寄せ、篤志にキスを落とす。
触れるだけだが、篤志を満たしてあげるように優しく、柔らかく。
そっと唇を離すと、恐らく目は見開いたままだったのだろう、呆然とした篤志の顔が間近にあった。
次のキスの時は目を閉じるよう注意するだろうが、今回は不意打ちだ、仕方ない。
夢ではないと言い聞かせるように硬直する背中を抱きしめる。
「私の気持ちが、お前にあること。それが破談の理由。
……もっとも、この結婚に乗り気だった両親には秀臣さんが上手く理由を作ってくれるだろうが」
西は、恐らく自分が母親になるにはまだ早いことを指摘し、断るだろう。
彼には頭が下がる思いしかない。
自分がそうであったように、西もそういう目で自分を見ていなかった。
いや、見られなかった。
お互いを知り、恋に落ちる前の段階で篤志に出会い、篤志を認めたから。
(お前は、自分のことを過小評価しすぎる)
どれだけ好きか、理解していないだろう。
「そんな……先輩は、西さんのこと、いい人だって……、それに、俺なんか、俺なんか……」
混乱しきった篤志が、やはり過小評価の言葉を口走る。
それが篤志が篤志たる所以だ。
いつまでも自信がない。
あゆみは顔を寄せ、キスをするかしないかの位置で微笑む。
「秀臣さんは確かにいい人だが、私が選んだのはお前だよ。
お前にまいった、という方が正しいかもしれないが。
だから、もう泣くな。ちゃんとお前のこと、大好きだから」
涙を拭うように瞼に唇にキスを落としていく。
余計に篤志は泣き出したが、仕方ないかもしれない。
篤志にとっては、夢の中の出来事だ。
だが、その時だ。
耳にカサッと音がし、あゆみは視線だけその方角を追った。流石に校内の人間に見られては拙いからだ。
だが、視線の先にいたのは、校内の人間ではない。
逃げるように去る、長く綺麗な髪。
その後姿は、見間違いない。
(相原さん?どうして、ここに…)
何か、整理をつけなければならないことがあったのだろうか?
追って話を聞きたいが、逃げる様子がおかしい。
いや、琴子はいられなかったのだろうが…。
気は進まないが、“彼女”へ接触してみるのも手だろう。


「篤志、帰る支度を整えて校門へ来い。
タクシーを呼んで、待ってるから」


まだ夢見心地の篤志を現実世界に戻すと、あゆみは事務室で電話を借り、タクシーを呼ぶ手はずを整えてから、校門へ向かう。
琴子の為にすべきこともあるが……まずは、自分の為にすべきことをしなければならなかった。
西のチャンスをふいにしてはならない。
自分は、彼と違って、会社の為の結婚を望まれているのだから。
「入江、お前は違うのだから、自分自身の意思で琴子さんを選ぶチャンスを作れ」
あゆみは、一人つぶやいた。
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