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女のおれ、男の私7 

大変長くお待たせしました。
続きです。
医学部を出ると、雨が今にも降りそうだった。
自分の心中と似ている気がして、らしくもない感傷に直樹は溜息をつく。
文学部を通るようにして歩いてきたが、琴子の姿は見えない。
時間的に既にテニス部へ行っている時間かもしれない。
直樹はテニス部へ足を向けた。



テニス部では、相変わらず須藤がラケット片手に頑張っていた。が、琴子の姿はない。
気まぐれで足を運んだ自分と違い、琴子はテニスも出来ないくせに真面目に足を運んでいた。
例え気まぐれであっても足を運ぶ自分に会う為に。
会えないことの方が多いのに、馬鹿な奴だと思った。
だが、琴子を確認する時、このテニス部に足を運ぶことが何度もあったことを思い出し、ここを確かな共通点と自分も思っていたことを今更ながら気づいた。
ここに来れば、琴子に会えるとそう思っていた。そうして会って、付き合っていたと少しでも思っていた須藤をテニスで思い切り負かしたこともあったし、姿を確認できず、逆に異変を感じることも出来た。
前は理由も分からなかったが、今回は異変の理由も十分過ぎるほど分かっている。
「相変わらずですね、須藤さん」
怒鳴り散らす須藤に声をかけて、多少世間話をした後、テニスコートにいない琴子に話題を向ける。
琴子は最近テニス部には来ていないらしく、金之助とデートばかりをしているようだ。
沙穂子と婚約した今、諦めなければならない琴子が誰と付き合おうとそれは関係ないこと。
…自分には関係ない、こと。


それは、本当に正しいことなのか?


心の奥底にある問いが強くなる。
答えも返せない問いを無視しようとしているのに。
だが、直樹は気づいていない。無視しようと意識をしている時点で、その問いを無視出来ないこと、無視出来ない時点で無意識の答えは出ていること。
自覚のない余裕のなさに追い込まれていた直樹は、人には簡単に指摘できることを気づくことが出来なかったのだ。
「ずい分ランク下げたわね、相原さん」
琴子のいないコートには用もなく、須藤との話を切り上げた直樹は裕子から声をかけられていた。裕子はすっかり、自分との想いに決別がついているようだ。そこには未練も何もない。プライドもあるだろうが、涙も見せないその姿は、琴子とは違っていい女なのだろうが、直樹には何かが物足りない。


琴子は、自分に命懸けだから。


その琴子は、自分を諦めるつもりなのだろうか。
出来もしないのに努力しているのだろうか。


ずっと泣いているくせに。


「あーっ!!!入江くん!!!」
考えながら歩き始めると、大音量で声がかけられ、直樹は思考を中断した。
琴子の親友の理美とじんこだ。
二人は琴子のことを想って、わざわざ直談判をしに来たこともあり、そのお陰で現在の状況を知ることが出来たこともある。
手遅れになる前に手を打てたのも、この二人のお陰でもあるが、琴子の親友だけあり騒々しい。
既に琴子から事情を聞いたのだろう、沙穂子との結婚の話題を向けてきた。
琴子が落ち込んでいるという。
そんなことは知っている。
簡単に諦める琴子だったら、自分の視界に入っていない。入れさせない。入れようとしない。
……見つけようと思わない。
が、それを二人に教えてやる筋合いはなかった。
「で、金之助とデートしてんだろ」
だから、もうおれのことは忘れるんじゃないか。
言外にそう含ませ、そう言うと、二人は言葉を詰まらせる。
その言葉を口にするだけで、心の中が苛立つ。
(出来もしないことを)
しかし、次の瞬間、直樹は心が凍りついた。
「だけど、金ちゃんも大胆よね。
いきなり琴子にプロポーズしちゃうんだもん」


プロポーズ?
何だ、それは。
あいつ、そんなことは一言も……


言う訳がない。
もう自分に少しの望みもないと思っている琴子が、そんなことを言う訳がない。


デートばかりを繰り返していると思った。
琴子のことだから、それだけだと思っていた。
だが、もう自分達は子供ではないのだ、デートの先にあるもの、その可能性がない訳ではない。


直樹は、それらを意図的に除外していた自分を知った。


琴子が、気を紛らわせる為にデートをしていた金之助との将来を考えている。
金之助だって琴子と同じ日にちで、琴子を想っていた。
その金之助の想いの深さと重さ、そしてその辛さを理解出来ない琴子ではない。
まして、自分に望みがないのなら……。


琴子が、おれを、諦める……?


その先を聞きたくなくて、直樹は無意識の内に足を速めていた。
いつもは働く頭も機能してくれない。
頭の中が琴子で埋め尽くされる。
振り払おうとしても、琴子は消えない。


それは、本当に正しいことなのか?


その問いに答えてはいけない。
あらかじめ用意した答えで偽らなければならない。
沙穂子との結婚は……


─二度と取り戻せなくなってからでは遅いんですよ。


取り戻せなくなる。
琴子と過ごしたあの騒々しい日々を。
失ってしまう。
琴子の笑顔、琴子が自分を想って落とす涙を。
夢を諦めたあの夜、抱きしめてくれた腕の温かさを。


冗談じゃない。


その言葉が浮かんだ瞬間、直樹は愕然とした。
もう、全てが遅かったのだ。


それは、本当に正しいことなのか?


理性で用意していた答えに意味はなく、既に感情は答えを選んでいた。
本当の答えを自分の中で認めた以上、用意していた答えは消えてなくなった。
心の中で感情が吹き荒れる。
自分にはないと思っていた、抑えきれない程の激しい感情が。


逃すものか。
おれを侵食しつくした女。
おれの琴子。


おれ以外の男を、好きにはさせない。
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